民法(相続法)改正による配偶者居住権の落とし穴

 民法(相続法)改正により、令和2年4月1日から配偶者居住権の制度が開始された。社会の高齢化が進み平均寿命が延びたことから,夫婦の一方が亡くなった後,残された配偶者が長期間にわたり生活を継続することも多くなりました。その際には,配偶者が,住み慣れた住居で生活を続けるとともに老後の生活資金として預貯金等の資産も確保したいと希望することも多いと考えられます。そこで,遺言や遺産分割の選択肢として,配偶者が,無償で,住み慣れた住居に居住する権利を取得することができるようになりました(法務省のHPの記載援用。)。

 さて、ここで配偶者居住権を設定するリスクや落とし穴はないのかと考えてみた。するといろいろな疑問点や問題点が出てきました。①配偶者居住権付きの建物は売れるのか。②配偶者居住権を持っている配偶者が、建物の増改築や修繕をすることができるのか。③配偶者居住権の評価はどうやってするのか。④建物の固定資産税は誰が支払うのか。

 ①~④までの結論を端的に述べると、①については売ることができる。②については、修繕は配偶者が行えるが、増改築については所有者の承諾が必要。③については、様々な意見や考え方があり、非常に複雑であるということがわかった。ここではこの記載のみにとどめたい。④については建物の所有者が納税義務者とされているが、所有者から配偶者に請求することができるようである。

 結論のみを端的に述べたが、配偶者居住権を設定することで、様々なリスクが生じそうである。例えば、配偶者居住権付きの建物を売ろうと思っても買ってくれる人はいるのか。配偶者が自宅を売って介護施設の費用に充てようとしたときの問題。修繕と増改築の細かい違い。所有者が配偶者に固定資産税を請求しても払わなかったときの問題。などたくさん出てきそうである。今後配偶者居住権が実用化され、判例や実務の蓄積がされたときに再度触れたいと思う。